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地の底に降り注ぐ太陽【6】


「もうっ!ホントのホントに探したんだヨ〜〜っ!!バーン様に殺されるかと思ったんだからぁ〜〜・・・!!」

「だあぁっ!腕が苦しい!!――ってか仮面で頬ずりすんなっ・・・痛たたっ・・・!!?」

城から脱出して三十分も経ってないだろうに、感動の再会ばりにポップにすり寄るキル――何故ココが分かったのか?それより何故女言葉なのか?――色々聞きたい事は多いが、今は目の前の『敵』をどうにかするのが先決だ。

「いいから離せ!」と意外に逞しい胸板に手をつき、死神を引っぺがす。

「今はそれどこじゃねぇだろっ・・・集中しろ!強いぞっ、あの野郎っ・・・!?」

「・・・そうみたいだねえ・・・」

スゥ――と、キルの瞳が冷たく光る。凍てつく視線の先にタナトスを確認し、ポップを背後に隠すように死神は敵に向かい合った。

「さて・・・人様の領地にこ〜んな巨大な結界無許可で張って、ウチの大事なお妃様にエロいことした犯罪者はどうやって殺してあげようか?」

背後で「お妃言うな!」騒ぐポップには何時ものおどけた変態死神にしか見えないが、肩で鎌を弄ぶキルの放つ独特の威圧感に、タナトスもまた油断なく不敵な笑みを反す。

「なるほどな。お前さんが『死神キル』・・・か」

「あら〜・・・?僕そんなに有名だったかな?
この数百年表に出てきた事は無かったはずなんだけど――どうやらオタクに情報流したネズミは随分深い内情まで喋ってるみたいだネ〜・・・?」

「この魔界で小物が生き延びるにゃ『力ある者』の庇護は必要だろ・・・そこのボウヤみたいにな・・・」

「なっ!?」

ザボエラと同列の小物扱いされてポップが噴火した。

「ボウヤがバーン様の庇護下にあるのは否定しないけど、あの裏切り者と可愛いウチのお妃様一緒にしないでくれる?
――ってかおたく何しに来たわけ・・・まさか本当にボウヤに会いに来たワケじゃないでショ?」

キルの疑問も当然だ。本気で敵国の重要人物攫うなら、もう少し念入りに準備してくるだろう。
そもそもポップが外に出たこと自体、予測できたとは考えずらい。

だがタナトスの思考回路も予測不可能仕様のようで、「何で?」と聞かれて「観光」と返してきた。

「・・・なんの冗談ヨ?」

「ホントに観光だよ。あの小物が持参金代わりに寄越したコイツの性能の確認も兼ねて、な」

いって差し出してきたのは小汚い木片の人形だ。
どう控え目に表現しても『呪いの人形』にしか見えない。
「――んで、フラフラしてたらイヤに魔力の高いボウヤが竜の騎士様に守られてるから、噂のお妃だと当たりをつけて二人きりになってみただけさ・・・こんな可愛い子だと知ってりゃ、もうチョッと上手く攫えたんだけど、さすがに護衛が多くて失敗だな?」

「なるほどね・・・じゃあここで君をドウコウするのは不可能なワケだ・・・」

「え、何で??」

「・・・同じ術でも君は専門外だから見ただけじゃ分からないネ・・・
――よく見てごらん・・・アレは本人じゃないヨ。」

言われてタナトスを視認し「あ!?」と、ポップは彼の違和感にやっと気付いた。

「血・・・出てねえ?」

ポップを救い出す際にキルが大鎌で断った右腕――その切断面から吹き出すはずの血が一滴も零れてはいなかった。
件の人形を確認すれば、丁度右腕の辺りが大きく欠けている。

「呪術・・・ってやつか?」

「そ!あの手の術でネームバリューはNO1の『身代わり人形』ってやつさ。
――最も、姿形どころか能力値の大半も転移できるとなると、そうとうな高性能なアイテムだねぇ・・・どうしてウチにいる間に披露しないかね、あの妖怪・・・?」

「いやに詳しいんだな」

「フフフ・・・自慢じゃないけど、ボクは君の師匠に『自らは手を汚さず、敵を罠に嵌めて喜ぶサイテー男』と褒められた唯一の存在・・・呪術や空間呪文のような『遠くから石を投げる攻撃方法』は得意中の得意さ!」

誇らしげに外道ぶりを語るキルに、「褒めてねえよ」とジト目で返すのがポップの精一杯だ。

「とにかく、この場で奴を捕えるのは不可能だねえ・・・あの手のアイテムは一定のダメージも吸収するから、攻撃しても疲れるだけだし・・・
そもそも脱出法を考えずに観光に来るほど間抜けにも見えないしネ〜。」

「お手上げだネ〜」と降参のポーズを見せるキルに構えていたタナトスも威圧感を引込める。

「わざわざ見逃してくれるのかい?」

「攻撃が無意味な以上、ボクとしてはボウヤさえ無事ならいう事ないよ・・・・・・まあ『ボクは』、ネ?」

「?」

ニヤリ、と意味ありげなキルの笑み。その不審さの真意は直後にタナトスの警鐘をならせた。

「タナトスっ〜〜!!!」

背後上空から凄まじいと闘気と共に殺気が降り注ぎ、それまで飄々とキルの殺気を受け流していたタナトスが驚愕に振り向いた!

「貴様!よくも俺の前にっ!!」

「――!?バランッ!!」」

よほど結界に自信があったのか、正面のキルに集中していたのか、急襲に少々慌てたようではあるが、それでも残る腕に闘気を高め防御力を増し、真魔剛竜剣の一撃を迎え撃つ体制に入る――

竜の騎士の一撃を凌いだのは流石の一言だが、やはり無傷とはいかない――

「――がっ、ああっ!!」

「ヒャ〜っ、派手な登場だね〜・・・!!」

左肩に食い込んだ剣が胴まで一気に沈み込む。相当エグい光景にポップが「ひで〜」と仰け反るも、肝心のタナトスは感情の全てを削ぎ落したかのように受けた攻撃の被害を確認していた。
キルに引き続き、左半身を持って行かれた事により、今度こそ戦闘不能になったのだろう――過負荷を受けた人形が大きくひび割れていく。

「さすがに身代わりアイテムがあっても、死神キルと竜騎士バランを同時に相手はキツイ・・・チット情けねえが俺は退散させてもらうぜ・・・!
――お妃様には、いづれまた・・・」

粗暴さから一転、慇懃な仕草で一礼をすると「ヒラリ」とキメラの翼が一枚舞い・・・

カラン・・・

その後には不気味に砕けた人形だけが残された。

「・・・逃げたか!」

バランは忌々しく剣を振り――だがすぐにキルの背後のポップに「大丈夫か!?」と駆け寄る。

「ああ、大丈夫だよ・・・」

敵の気配が完全に消え、やっと一息つく。突然消えたポップを探し悪戦したのだろう――珍しく取り乱したように無事を確認するバランに、笑みを見せる余裕も戻ってきた。

「ゴメン、心配かけたみたいでっ――ぶっぎゃfydsy★△◎×!!!?」

後半のセリフが乱れたのは、脳天に降りた『死神の一撃』に舌を噛んだせいだ。
何ぞとクレームをつける前に、今度は「心配かけられたのは僕の方だヨ〜v」とポップの両頬をグニグニ引っ張り出す。

「ひゃに(何)しやがりゅ〜〜!!?」

「イイワケが止まらない悪い口はこれかな〜??
――何のつもりで逃げ出したのか知らないけど、帰ったらバーン様にもキツく言ってもらうから、覚悟しとくようにネ〜〜♪」

「うっ、・・・チョッと買い物したかっただけだろ・・・」

笑顔の仮面の奥の表情は分からないが、どうやら怒っているらしいキルの迫力に気付いて、ポップはみるみるトーンダウンしていく。
普段なら反発するところだが、危ない場面で助けに来た相手に強く出るほど礼儀知らずではない――しばらくモゴモゴしたが、最終的には「ゴメン」と口にした。

素直になった子供に満足したのかクセ毛を一撫ですると、今度はバランに向き直る。

「君も相応のお叱りは覚悟するようにね。連れ出した揚句見失うなんて、失態もいいところだよ・・・!」

「バランは関係ねえよ!俺が無理言ってついてきてもらったんだっ・・・!!」

「そういう問題じゃないでショ!
――身分に見合った振る舞いをしないから、こういう揉め事招いたって少しは自覚してくれる?」

「!?――『身分』って・・・俺は好きで正妃になったワケじゃないし、認めてねえよっ!!
ってか、お前が素直に服を買ってこないからコッソリ抜け出すハメになったんじゃねえかっ!!」

「ヒドいっ!僕が夜なべして作った服の何が不満なのさっ、傷ついちゃうヨ!!」

「・・・実は手作りかよっ!」

炊事掃除洗濯だけでなく裁縫もプロレベルだった死神――こんな状況下では何の役にも立たない特技を披露されて、全身をよく分からん力がワナワナ走るポップ。
それらの不満を全て喉元に集約したポップは――

「とにかく俺は束縛される謂れはねえ!
ついでにバランはカンケーねえからなあっ!!」

「――おいっ、落ち着けっ!?」

「あっ、コラ!話は終わってないヨ〜っ!!」

戸惑うバランの腕をとると「追って来んな〜〜!!!」と、止めるキルを振り切りルーラで逃げ出してしまった。
残されたキルは遠くなる二人にため息を一つ吐くと、地面に残された敵の痕跡を拾いあげる。

「バレちゃったか・・・手遅れになる前にバーン様に進言しなきゃなんないけど・・・あのボウヤ本当にニブいからなあ〜〜・・・」

『千年前』にバーンとポップの間で交わされた大切な契約――そしてそれを知る者として、キルは何としてもポップを守らなくてはならない。
そのための最良の方法はポップに記憶を取り戻してもらう事だ。

だがその為にあの少年の笑顔が曇ることを思うと、この千年、大事に見守ってきたキルは気が重くなる。

バーンとヴェルザー。『二人の主』の悲願を叶える『希望』となったポップ――この残酷な世界に真の安寧をもたらす『希望』を守るべく、キルも遅れてルーラを身に纏わせた。



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ツドオォ・・オンッ!!

凄まじい衝撃と共に中庭を転がるポップ。それほどヒドいものではないが、出鱈目な着地に珍しくバランもバランスを崩して膝をついた。
元々ルーラの着地は苦手だが、興奮からいつも以上にコントロールが乱れたようだ。

「わ、悪い・・・着地は苦手なんだ・・・」

「・・・大したことはない。」

本当に怒ってはいないのかもしれないが、厳つい表情が全く動かないので怖くてしかたない。

「ゴメン・・・なんか、迷惑かけたかも・・・」

今になって自分の行動がマズかったのではと不安になる――こんな大騒ぎは予想していなかったが、この騒ぎでバランの立場にマイナスがあったなら自分のせいだ。 可能な限りフォローするつもりだと頭を下げたポップに、バランは「気にするな」と声をかける。

「・・・別に構わん。今回の失態は想定外だが、お前を連れ出した際の罰は覚悟の上だからな。」

「へ?」

「・・・何か、聞きたい事があったんだろう?」

「――!」

息が止まるかと思った。

心の中を見透かされた動揺にポップの黒い瞳が大きく揺れる。
そのポップの様子をどうとったのか、バランの口元が笑みの形をつくる。

「バラン?」

「はじめからおかしいと思っていたよ・・・俺は気軽にどこかへ誘われるタイプではないからな。
それでもあえて俺を選んだのは、聞きたいことがあったから、だろう・・・違うか?」

「ああ・・・」

でも、本当は聞くのも怖い。バーンもキルも、この魔界も知らない――ポップの推測が正しければ『バランだけ』が知るだろう現実。
それがもし自身が望む応えでなかったなら・・・・

「あのさ・・・」

「千年前、あの大戦の後、地上はどうなったのか・・・ 『竜の騎士』バラン、あんたなら知ってるよな?」

もう、ここから見る事は敵わなくなった青空――その青さが誰よりも似合う小さな勇者。

「みんな、幸せになったよな・・・」

自分が地上から消えた後、仲間が、あの無邪気で傷つきやすかった勇者が笑顔で暮らして行けたのか――それが何よりも気がかりだった。
だがバーンが去った後、魔界から地上の様子を確認する術は失われた。

『竜の騎士は戦いの遺伝子を受け継ぐ』・・・もしそうならば、地上にいた頃の記憶もあるかも・・・ポップはその可能性に賭けてみたかった。
もっとも、現実はそう甘いモノではないようで、バランは暫く黙ったのち「スマンな」と、ポップの可能性を否定しただけだった。

「『俺達』が受け継ぐのは戦いに関する記憶だけなのだ。
残念だが、それ以外の個人的な記憶や思い出は通常の転生と同じく、キレイに消滅する――お前の期待には
応えられそうもない。」

「・・・そっか」

これで最後の可能性も消えてしまった。
黙り込んだポップにどう声をかけていいか・・・『やさしく慰める』なんて行為からは最も遠い世界で生きてきたバランにはハードルが高すぎて、目の前の少年にどう接していいか困ってしまう。

そうして気まずい時間が流れるも、次に顔を上げたポップの顔は意外に晴れやかだった。

「じゃあ・・・『すっきり』した!」

諦めは始まり――悲しいが、それも現実。

「俺さ、結構悪あがきするタイプなんだぜ?
だからずっと足掻いてた・・・地上のこと知る方法、あるんじゃないかって・・・
でもアンタが知らないんじゃ、もうホントに諦めるしかなさそうだ。」

「・・・・・・」

何と返したらよいか分からぬバランが眉間に皺を増やしす。

「んな顔しないでくれよ、アンタが悪いワケじゃないんだから・・・
――でも、一個だけお願いしてもいい?」

「俺で叶うならな」

竜の騎士はやはり優しい――自分の知る騎士ではないけれど、『地上への未練』を断ち切らせてくれるのは、バーンでもキルでもないから・・・

「泣かせて、くれる?」

「――!?おっ、おいっ・・・!!?」

逞しい胸にすがりつくと、バランの焦りは無視して泣いた――子供の様に泣きじゃくった。

「ダイ――っ・・・!!」

地上への未練も希望も、すべてが枯れ果てるその時まで、ポップは竜の騎士の腕の中で泣き続けた。

その悲しさに、バランは抵抗を諦め、泣き疲れて動かなくなるまでポップの背を撫でてやる事しか出来なかった――何故か、この場で胸を貸すことが『竜の騎士の役目』だと思ったから・・・
【続く】

《あとがき》

今回もダラダラ長くてスマン。
『話の前後のつながり』とか『誰視点?』とか「何ソレ?うまいの??」状態。

文才もないのに無理して長編書くから・・・

でも頑張って書いてるから読みずらくても許してください(泣)

次回はやっとこ旦那(バーン様)の出番でゴザル。
いっぱいイチャコラさせる予定です――ってかそろそろ裏部屋に移動かも?


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